抗がん剤AC療法の副作用 ②口内炎
口腔内の変化
消化器系の粘膜は細胞分裂が盛んなため、抗がん剤によってダメージを受けやすい。そのため口内炎になりやすいと言われている。
抗がん剤ACを投与してから、口腔内にどんな変化があったか、私の例で振り返ってみる。
投与1~3日は何も変化はなく、4日目になって、口の中がピリピリ感じはじめた。
5日目に味覚障害で甘さ、酸っぱさ、辛さが感じにくくなった。特にケーキやパイナップルジュースのような、濃い甘さが感じない。
6日目に舌の先がピリピリし始めて、8日目には上顎に裂けたような口内炎が発生した。
9日目に歯肉炎が発生し、10日目に舌の先が裂けた。
しばらくは食べ物が染みたりしたが、病院に相談すると、口内炎は市販の塗り薬を使ってよいと言う。市販薬を塗って口内炎はすんなりと治り、舌先も自然に治ったので、それほど辛いものではなかった。
感染しやすい要注意期間
最も手こずったのが9日目からの歯肉炎である。歯茎が腫れ、顔まで腫れたのだ。
毎日コンフールで消毒して、アイスノンで冷やして、腫れが引くまで1週間かかった。もちろん歯科医院を予約して、クリーニングしてもらったが、まさか歯肉炎で顔まで腫れるとは思いもよらなかった。
口の中はもともと菌が繁殖しやすく、抵抗力が落ちてくると菌に負けやすくなる。
抗がん剤投与から約7日~14日頃が、最も白血球の数が減って、免疫力が低下し感染しやすくなるそうだ。通常であれば負けないような細菌に対してでも、簡単に負けてしまうという、感染しやすい要注意期間がこの、抗がん剤投与から約7日~14日頃とのこと。
この時期は自分自身の常在菌はもちろんだが、人込みに出かけないなど、感染には細心の注意を払う必要がある。
抗がん剤AC療法の副作用 ①吐き気•味覚
絶対に吐かせない布陣
抗がん剤AC療法の副作用として真っ先に挙げられるのが「吐き気」「嘔吐」だ。
抗がん剤治療全般としても、消化器系の粘膜は細胞分裂が盛んなため、最も刺激を受けやすいと言われている。口は口内炎や味覚障害、胃は消化不良や吐き気などの副作用が出るのはそのためだ。
だからACを点滴する前には、強力な吐き気止めの経口薬「アプレピタントカプセル」を飲んでから、吐き気止めの点滴「アロキシ点滴」を行うという、念の入れようになっている。
AC点滴後も3~5日間は、嘔吐中枢を阻害する吐き気止め経口薬「カイトリル錠」と、消化を促進して嘔吐を防ぐ「プリンペラン錠」、胃の粘膜を保護する「セルベックスカプセル」を飲むという「絶対に吐かせない布陣」が組まれている。
薬で脳からの指令を止め、胃を働かせて粘膜を保護するのだから、もう最強である。
全く吐き気がない
その甲斐あって、私はほぼ吐き気を感じることはなかった。
一時的にムカムカした感じがすることは数回あったが、吐き気と言うほどの不快感は全くなかった。ムカムカするのは空腹時だったので、そういう時は少しお菓子や果物などを食べて、気を紛らわせた。
「抗がん剤=嘔吐で弱る」というイメージがあったので、私は拍子抜けしたが、これは普段から薬を飲んでいなかったから、特に吐き気止め薬が効いたのかもしれない。
看護師から「食べられない時にはプリンとかヨーグルトとか、口当たりの良いものを、何でも食べれるものを食べて下さい」と言われていたが、私は普段通りの食事が難なく食べられた。
副作用には個人差があるというのは、それまでの薬の摂取習慣や食習慣、胃や腸の状態などで大きく左右されるからなのかと、1人で納得した。
ケミカルな味覚障害
そのかわり少しの間、味覚障害はあった。
甘みが少しケミカルな味に変わってしまい、ケーキや黒豆のような甘味を食べても、あと口が悪くて、あまり美味しく感じられない期間があった。パイナップルジュースも美味しくなかった。
この頃はまだ糖質制限していなかったので、しっかり甘いものを食べていた。
それ以外の食については、味覚障害を感じることはなかったので、生活上、大きな問題にはならなかった。
抗がん剤治療の流れ
抗がん剤治療の流れ
病院によって異なると思うが、AC療法の抗がん剤はこのような流れで行うということを、参考までにまとめてみる。薬剤は製品名(一般名)で記載する。
1.血液検査・診察(体調確認)・体温・血圧・体重測定 約60分
↓↓↓
2.化学療法室で点滴スタート
①アロキシ点滴(パロノセトロン塩酸塩)50ml+生理食塩水 30分
↓
②デキサート注射液(デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム注射液) 3.3mg 30分
↓
3.抗がん剤【AC療法】点滴スタート
①【A】アドリアマイシン(ドキソルビシン塩酸塩) ※赤いインパクトのある薬剤 50ml 10分
↓
②【C】シクロホスファミド(エンドキサン)500ml 60分
↓
③生理食塩水 5分
↓
4.終了・退室
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アロキシ点滴(パロノセトロン塩酸塩)
=5-HT3受容体拮抗薬
抗がん薬による嘔吐中枢への刺激を阻害し、悪心(吐き気)・嘔吐を抑える薬
デキサート注射液(デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム注射液)
=副腎皮質ホルモン(ステロイド)
抗炎症作用、免疫抑制作用などにより、アレルギー性疾患、自己免疫疾患、血液疾患など多くの疾患・病態の治療に用いられる薬
アドリアマイシン(ドキソルビシン塩酸塩)
= 抗がん性抗生物質
細胞の増殖に必要なDNAやRNAの合成を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす赤色の薬。
シクロホスファミド(エンドキサン)
= アルキル化剤
細胞増殖に必要なDNAに作用し、DNA複製阻害作用やDNAの破壊作用により抗がん作用をあらわす薬
☆日経メディカルより引用
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化学療法室での過ごしかた
ここまで化学療法室でおよそ2時間半、スムーズにいけばトータルで3時間半くらい。↓↓↓の1と2の間は余裕があるが、↓は点滴を取り替えるだけなので、あっという間だ。
この間にはトイレに行ったり、水分を補給したり自由だが、【AC】を点滴している時だけは、トイレに行くことは避けた。この【AC療法】は劇薬並の扱いになるので、看護師も慎重に扱っていたし、万が一、動いて引っ掛けたりして注射針から薬剤が漏れ出たら、大惨事になってしまうからだ。
しかも私はクーリングを行っていたので、【AC】の点滴だけは全集中していた。
それ以外は基本的に自由。
私がお世話になっている病院では、化学療法室にはフルフラットになるリクライニングシートが並び、それぞれカーテンで仕切られた空間になっていた。
お昼時には軽食など持参して摂ることも問題ない。スマホを見たり、イヤフォンで音楽を聞いたり、本を読んだりしながら、それぞれがゆったりと過ごすようになっている。
クーリングの方法
自主的クーリングは、保冷袋にアイスノンと保冷剤を入れて持参して行っていた。
2の点滴は全身に行き渡らせる必要がある薬剤なので、ここではクーリングはNG。3の抗がん剤のタイミングでクーリングを行った。
アイスノンは眉毛用として、頭に巻きやすいようバンダナで包み、保冷剤は手足の爪用として、ふわふわで締め付けない靴下の中に入れて4セット準備した。手はキッチンのミトンでもよかった。
看護師には予めクーリングすることを伝えてあるので、装着のタイミングを教えていただいた。2の②で準備を始めて、3の点滴に付け替えるタイミングで、アイスノンを頭に巻き、靴下を足と手にはめるようにした。
装着しての約70分間は、手は使えないのでじっと休んでいた。頭のアイスノンはまだ心地よいが、手足の保冷剤は、さすがに指先が冷えて、次第に感覚がなくなってくる。とてもではないが、眠れるような状態ではない。只々耐えて、これが効くのかどうなのか、やってみなければわからないと、自分に言い聞かせていた。
結果として、最終的に眉毛は抜けた。それでも毛髪よりは長く持った。足の爪は、6本が黒く壊死して剥がれた。手の爪は・・・全く影響を受けなかった!これは何より嬉しかった。
薬剤師と看護師からのアドバイス
私は当時、初めての抗がん剤治療にとても怯えていた。日頃から薬を飲まないようにしていたので、抗がん剤は普通の人以上に"効く"と感じていたのだ。副作用の表れ方には個人差があるから、どんな症状が出るのか不安しかなかった。
薬剤師からは「抗がん剤治療期間はとにかく水を大量に飲んで」とアドバイスを頂いた。薬を代謝する為には、大量に水が必要だという。なるほど「お酒と一緒だ」と思った。お酒を代謝するには、飲んだお酒の倍量の水が必要と言う。代謝のためにはお茶ではダメで、水でなければいけないのだ。
看護師からは「抗がん剤治療で現れた身体の変化などは細かく記録しておくと良い」と教えて頂いた。だから私は最初の抗がん剤スタート時にミニノートを用意し、「治療の記録」を書き始めた。
「治療の記録」には毎日、体重、体温、食事内容、尿や便の状態、睡眠、入浴、現れた症状などを記録して、体調の変化や周期などを把握するようにした。
これは治療を終えた今でも続けており、このブログを書くのにも役立っている。
抗がん剤治療を始める前に
抗がん剤の特性
抗がん剤には、経口薬と、静脈への点滴、または注射による方法があり、投与量は基本、身長と体重で決められる。だから毎回体重測定は必須となる。
がん細胞は細胞分裂が活発なので、基本的に抗がん剤は、増殖の盛んな細胞を攻撃する薬剤だ。
同時に骨髄の造血細胞、口腔粘膜、消化管粘膜、毛根細胞、爪母細胞などは細胞分裂が活発なので、正常な細胞であっても、抗がん剤の攻撃を受けてしまう。
これらの影響で、赤血球、白血球の減少による倦怠感、口内炎、吐き気、脱毛、爪の変色等などの副作用が現れる。
私は、抗がん剤【AC療法】4クールと【パクリタキセル(アブラキサン)療法】4クール、点滴で投与することになっていたが、初めての抗がん剤に不安を覚え、ネットで副作用に関するブログを読み漁っていた。
脱毛が避けられないことに落胆していたが、少しでも副作用は軽減させたいと思っていた。
クーリングで副作用を抑制
EU諸国では、化学療法中にクーリングキャップを装着し、頭皮を冷やすことによって頭皮の血流を減らし、毛根に抗がん剤が作用することを防ぐ「頭皮冷却装置」が承認されていて、導入している病院も多い。
日本では2019年に承認はされたものの、まだ一般病院には広がっていない。この装置は頭部につけた専用キャップに、マイナス4度の冷却液を流して冷やすことができるものの、成果にはばらつきがあると言う。
私はネットでこの情報を知り、毛髪が抜けるのは避けられないとしても、せめて眉毛や、爪の変色、指先の痺れといった日常生活に影響しやすい副作用を防ぎたいと思い、2回目の抗がん剤治療からは、毎回アイスノンと保冷剤を持参して、自主的にクーリングを行うことにした。
こういう情報は病院側から聞くことはなく、あくまでも標準治療に集中されているので、ある程度は自分で情報収集していないと、分からないことばかりである。
もちろん主治医と看護師には、事前にクーリングしたいと相談し、了承は得てから行った。
主治医には「エビデンスがないので気休め程度だと思うけれど、良いと思うなら試してもらっても構わない」と言われた。
看護師には「自主的にクーリングする患者さんは初めて」と興味を持たれ、どのタイミングで冷却すると良いか、都度アドバイスを受けた。
皮下注射で白血球を増やす
主治医から今後の予定として、抗がん剤投与から24時間〜48時間内に、白血球を増やすためにジーラスタ皮下注射を打つ必要があると言われた。
つまり抗がん剤治療を行った翌日から翌々日に、再来院する必要があるということだった。
これは病院の基本方針として、抗がん剤とジーラスタ皮下注射はセットで行うものだと言う。
後にこのジーラスタ皮下注射は、私にとっては非常にクセものだとわかるのだが、この時点ではまだ、どのような事態になるのかはわかっていなかった。
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ジーラスタ皮下注3.6mg (ペグフィルグラスチム(遺伝子組換え)キット)
= G-CSF製剤(顆粒球コロニー形成刺激因子製剤)
骨髄中の顆粒球系(特に好中球)の分化・増殖を促進する作用や好中球機能亢進作用、好中球に対する抗アポトーシス作用などをあらわすG-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)の製剤で、がん化学療法などによって引き起こされる好中球減少症などに対して使われる薬
※日経メディカルより引用
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美容室でショートカットにする
抗がん剤治療が始まる前に、美容室を予約した。副作用としての脱毛は避けられないと知ったので、名残惜しかったがバッサリとショートカットにすることにしたのだ。
ベリーショートでお願いしたのだが、思っていたよりも短くはならなかった。10cmくらいの長さにしておくと、後々都合が良かった。
抗がん剤治療の前に、潔く刈り上げてしまう方もいるようだが、それはそれで、抜け始めた時にチクチクして大変らしい。
この他、ネットでウィックをチェックしたり、脱毛時に必要になる医療用キャップなどを調べたり、脱毛に対する準備に余念がなかった。
この美容関連については、また別途まとめたいと思っている。
乳がんと抗がん剤の種類
乳がん患者は増え続けているので、抗がん剤も、どんどん研究されて新しい薬剤が次々と承認されている。
私は基本的に抗がん剤は使いたくないと思っていたが、乳がんで多くの成果が上がっている抗がん剤だけは、試してみる価値はあるかもしれないと思った。
この抗がん剤治療に関して、半年間投与してわかったことを少しずつまとめていきたいと思う。
抗がん剤の種類
抗がん剤は、本人が止めると言うまで続けられるほど、種類が多いらしい。
調べてみると乳がんの標準治療では、アドリアマイシン系の抗がん剤と、タキサン系の抗がん剤がベースとなって、いくつか標準的な治療法が確立されているそうだ。
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アドリアマイシン系・・・アドリアマイシン(略号A)を含むACやCAF、エピルビシン(略号E)を含むECやFECなどがある。古くから使われている抗がん性抗生物質の1つで、DNA合成阻害効果がある。
タキサン系・・・パクリタキセル(略号P)、またはドセタキセル(略号D)がある。細胞を形づくる時に重要な微小管に結合して、抗腫瘍効果を発揮する。
アルキル化剤・・・シクロフォスファミド(略号C) は、DNAを構成する核酸の塩基にアルキル基を結合することで、細胞死に誘導する。
その他・・・5-フルオロウラシル(略号F)、メトトレキサー卜(略号M)などもある。
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投与する抗がん剤
主治医はまず、アドリアマイシン系のアドリアマイシン(A)とシクロフォスファミド(C) を組合せた【AC療法】を4クール(3週間毎に点滴投与を4回)行うと言った。その次に、アルブミンにタキサン系のパクリタキセル(P)を結合した【パクリタキセル(アブラキサン)療法】を4クール行うと言う。
この【AC療法】と【パクリタキセル(アブラキサン)療法】の抗がん剤を投与することで、腫瘍が縮小する患者は3割いるとのこと。
3割の実績ということは、7割には効果がないということか。
この2種の抗がん剤で効果が見られなかった場合には、また次の抗がん剤を考えるとのことで、基本的には実績の良いものから順に投与していくと言う。
ちなみに薬剤には一般名と製剤名があるので、非常に紛らわしい。点滴投与時に薬剤の表示を見ても製品名しか書かれていないのだ。だから必要に応じて確認する必要がある。
再々発の治療方針
再々発の治療方針
抗がん剤治療を拒む理由
体験することにも意味がある
放射線治療の怖さ
初発の治療方法
乳がんも初発と再発、再々発ではまるで違う。
再々発まで来ると、どんどん治療方法の選択肢が狭まってくる。特に私が無知だったと後悔したのは、放射線治療の後遺症についてだった。
初発の時に行った治療は以下の通り。
・部分摘出の温存手術&腋窩リンパ節郭清手術
・再発防止の放射線治療(平日25日間連続通院し照射)
・ホルモン療法(術後2年間4週間毎に通院し皮下注射&5年間毎日エストロゲン抑制の経口薬服用)
この時の治療によって、初発から17年、何事もなく生活することができたのだが、、、いわゆる初発でフルコースの治療を行ったことで、局所再発以降は選択肢が狭まって困ることになる。
放射線治療後の怖さ
当時は放射線治療について、治療終了後の後遺症に関して不勉強だった。
放射線治療時の副作用としては、照射部位の皮膚の赤み、かゆみ、ひりひり感や水ぶくれのようになることもあるが、治療終了後2週間ほどで症状は軽くなるし、重篤な副作用はないと聞いていた。
当時は約1ヶ月半、放射線治療を受けてから出勤していたので、日光浴をした後に身体がだるくなる感覚と似ていて、とにかく疲れて眠かった。だけど照射していた皮膚は痛くも痒くもなく、外見的にも全く変化が見えなかった。
だから放射線治療を受けたことで、その後困ったようなことは何もなかった。
放射線治療の本当の後遺症についてわかったのが、17年後の再発の手術の時だった。
放射線照射で細胞再生能力は限界になる
局所再発によって、温存していた乳房を全摘手術する時に主治医は言った。
「術後の皮膚は元に戻りにくく、傷は残るかもしれない」
見た目が悪くなるのは致し方ないが、元に戻りにくいとはどういうことなのか、わからないので質問すると、放射線治療を受けた部位の皮膚は、細胞としての再生能力の限界まで破壊されいるので、手術の傷口がどこまで再生できるか、手術してみないとわからないのだと言う。
えっ?
細胞の再生能力の限界まで破壊されている?
見た目には特に変化していないと思っていたが、実はもう高齢者の皮膚細胞のようになっているということ?
放射線照射で皮脂分泌もなくなる
もう一つ驚いたことがあった。
放射線照射した皮膚は、皮脂分泌がなくなる。もう汗や脂が出なくなるのだ。
実はずっとそのことに気づいていなかった。
普通に汗や脂が出ているものだと、ずっと思っていた。見た目にはなんの不自由はなく、特にカサカサしているとか、シワっぽいわけでもなかったからだ。
気づいたのは19年目のこの夏。炎天下にノーブラで黒のシャツ(下着)を着てパーカーを羽織り、大汗をかいた時だった。汗に濡れた黒シャツを脱いで驚いた。
過去に放射線照射した部位だけが、定規で線を引いたように四角く、くっきりと濡れていないのだ。
今の今まで気づかなかったのは、ノーブラで大量の汗をかいたことがなかったから。ブラをつけていることで、汗の左右差に気づけなかった。
放射線照射した皮膚は、見た目は普通であっても、細胞としてはもう、限界の状態ということなのだ。